【B3】読売新聞「人生案内」
読売新聞に「人生案内」というコーナーがある。
いわゆるお悩み相談だ。
回答者はいろいろな業界の方がいて、精神科医や弁護士、大学の学長、作家などの他、元マラソン選手の増田明美さんやタレントのパックンことパトリック・ハーランさんなどもいる。
意外と面白いコーナーなんだけど(断じて人の不幸は蜜の味というわけではない)、ワタシが相談者だったらご遠慮願いたいと思う回答者も中にはいる。
なんというか、独特な世界観というかポエム的な文体で回答する人とか、、、
ちょっと波長が合わない気がする。
でも、近頃になって、回答者の人選は、なかなか適切で的を射たものなのかもしれないと思うようになってきた。
つい最近、件のポエム風文章を駆使する回答者の言葉が胸に響いたことがあった。
相談者は50代のパート女性。ワタシと同世代である。
悩みは「自分の役割がないこと」。
夫や子供達は、妻として母としての彼女に感謝している。
しかし、パート仲間や親戚の間では自分の存在感がなく、悲しいと嘆く。
職場は少人数で同僚は皆良い人ばかり。
それぞれが人より少し出来ることがあって、それを仕事に還元しているため、仕事が気持ちよく進められると相談者は言う。
でも、自分だけ人より出来ることがなく、感謝もされない。
親戚の集まりでもそうだ。皆それぞれ自然に役割が決まる。
でも、彼女だけは「何ができる?」と聞かれるだけで、なんの役割も割り当てられない。
彼女は何も求められない自分を悲しく思い、そんなことをうだうだと考えている自分に嫌気がさすという。
そしてお悩みの最後は以下の一文で締めくくられる。
「今、わたしにやれそうなことは何か、教えてください。」
・・・・( ̄▽ ̄)チーン
「知るかー!!」
と思わず突っ込んだワタシだったが、回答者は違った。
その回答は、「あなたには、ひとの長所を見抜く、透明な眼力がそなわっている。」という一文で始まる。
なかなか言えないよ、これ。
「ほかでもない。それこそがあなたの、抜きんでた長所だ。」と回答者は続ける。
言葉は魔法だ。
「ひとは、あなたが思っているほど自信に満ちてはいない、他人の目を意識しながら、おっかなびっくり、なんとか役目をこなし、内心ほっと息をついている。」
「あなたの目は、そんな何気ない行為のなかにそのひとならではの美点を見出し、心から讃嘆する。」
「負の感情にふりまわされているようで、じつは、あなたはうちから、素直な感謝、称賛の光を、まわりに放射している。」
極めつけはこれ。
「あなたの澄んだひとことで、誰かの「これしかできない」が「こんなことができた」に変わる。素晴らしいことだ。」
言葉は魔法である。
使い古された文言のようでいて、なお心に響く。
正直、この御方の回答が苦手だったけれど、今回は違った。
光の当て方で輝きかたがこんなにも変わるとは。
この相談者に心療内科医とか学長とか、またはシビアなノンフィクションライターなどをあてがったらダメだと思う。
こうやってよしよしと頭を撫でながら、あなただって凄い人なんだとタンポポの綿毛のように柔らかい魔法の言葉で肯定してくれる人が適任だ。
この相談を読んで、編集現場の皆さんも熟慮の上で回答者を選んでいるのだろうと思うようになった。
だから、寄せられた相談に対してどの回答者が選ばれたのかをみるのも、このコーナーを覗く楽しみの一つになっている。
★B3