餅は餅屋がよろし。〈後編〉
(前編のお話……売れ残りをぎゅうぎゅうに詰め込んだバーゲン用ワゴン。だが、欲しいサイズ(=最下層サイズ)が見当たらない。というより、最下層サイズの区画が抹殺されている!? おぶらじゃは手に入るのか!?)
混乱した頭で売り場中をさまよった末、気づけば「high-rankゾーン」に戻っていた。
ここには、わずかとはいえ、最下層サイズが生存(謎)していた。
けなげにも彼らは、肥えた鼻持ちならぬ貴婦人連中の盾になって、おぶらじゃ群の先頭を務めているのだ(←単に小さいサイズから並べられているだけ)。
とにもかくにも25%引き。
彼らの一人を連れて帰るか……と逡巡していると、「試着したいんですけどお」という声がした。さっき言葉を交わした彼女が、愛想良く応対している。
試着……。
最下層サイズ2枚をひっつかむと、彼女に声をかけた。
「私もいいですかあ?」……と。
何を血迷ったか、おぶらじゃの試着。
初めての試みである。
パンツに限らず(そもパンツの試着ってあり?自前パンツの上から履くんか?)、下着の試着ってどうなんだろう。
下着。すなわち肌に直接つけるもの。
客の中には汗かきさんもいるだろう。
汗ばんだ肌に新品の売り物をぴたんとくっつけていいのか?
試着して気に入らなかったら、汗を吸い込んだ(に違いない)お品を何食わぬ顔して元に戻すのか?
盗み見ていた変態が、さらに何食わぬ顔してそれをお買い上げしたりしないのか?
が、時節は冬。
暖房が効いてる屋内とはいえ、素っ裸になればそれなりに寒い。
そうさ、汗なんてへっちゃらさ!(ホントか)
そうして入った試着室。
ランジェリー売り場だからって、特別な個室があるわけではない。
上部が空いてるフツーの試着室。
上半身とはいえ、さすがに素っ裸になるのは……とためらった挙げ句、セーターやらババシャツやらの袖だけ抜くことにした。
いざ、試着。
鏡を見るも、よくわからん。こんなもんかな……。
と、カーテンの向こうから、「拝見してもよろしいでしょうかー」と彼女の声。
首のまわりにセーターやら何やらがぶら下がっているような格好をさらすのは気が進まないが、ここまで来るともう開き直りの境地である。恥ずかしいもくそもなし。
カーテンの合わせ目から入り込んできた彼女は、おぶらじゃにさっと目を走らせた。
「あってないですね」
…………へ?
あってないってナニ?
バーゲン品のほうがあってるってことか?
high-rankものに手を出すなど1000年早いわこのヤローということか?
回転し始めた思考を、彼女の言葉が押し留める。
「ちょっとお測りしてみましょうか」
こうなるともう彼女のペースである。
しがない試着人は着せ替え人形と化し、もはやされるがまま。
そして、手際よくメジャーを巻きつけた彼女は言った。
「もっと上ですね」
……はい?
聞き返す間もなく、彼女はカーテンの向こうに姿を消し、戻ってきたその手にはなにやら別のおぶらじゃが……。
「これを試してみてもらえます?」
ごそごそとつけなおす操り人形、もとい、着せ替え人形。
「……入りますよー。……んー、ちょっとよろしいですかー」
すすっと近づいてきた彼女は、あろうことかカップの中に手を突っ込んできた!
ぬおおおっ!?
ご、拷問かっ!?
「あら、これもあってないですね。ちょっとお待ちを」
去っていく彼女。戻ってきたその手にはさらに違うおぶらじゃ。
ごそごそ。
↓
「よろしいですかあ?」
↓
カップに手突っ込み。
↓
うぎゃあっ!?
↓
寄せてあげて~~~。
↓
↓
↓
「そうですねえ、まだ脇にお肉があまってるので、もうひとつ上のサイズでも……」
上っ!?
さらに上っ!?
いや、いい! もういいよっ!!!
押し問答の末、「では……」と小さなカードに何やら書き込んだ彼女は、「こちらがお客様のサイズとなります」と、そのカードを差し出した。
「ご自分のサイズを勘違いしているお客様が本当に多いんですよねえ。ちゃんと測ってみたら、最下層サイズ(←とはさすがに彼女は言わなかった)から3つもランクアップした方もいらっしゃいまして……」
あまりの展開にあわあわしていると、さらに彼女は怖ろしいことを言った。
「お客様はだいぶ下のほうでつけてらしたので、お胸が縦に長くなっていて・・・」
なにそれ、どういうこと!?
サイズがあってなかったどころか、つけかたも悪かったってか!?
縦に長くって、どういうことになってるんだ、オーマイバストっ!
「体のサイズは年とともに変わりますので、定期的にお測りになられたほうがよろしいかと」
にこやかにご教示してくれた彼女は、驚愕の事実も教えてくれた。
曰く。
実際に測ってみると最下層サイズの人があまりに少ないので、メーカーも当該サイズの生産を減らしているのだと……(注:すべてのメーカーがそうであるとは限らない)。
餅は餅屋に聞け。
これでいいんだと思い込まずに、ちゃんと専門家のアドバイスを受けろ。
そうすることで、想像すらしていなかった展望が目の前に開ける。
これが、この前後編にわたる壮大なおぶらじゃストーリーの総括である(謎)。
なお、最下層サイズからの飛躍的(?)なランクアップに、さぞかし嬉しかろうとお思いだろうが、実はそうでもない。
なぜならば。
彼女の言葉をプレイバックしてみよう。
「・・・まだ脇にお肉があまってるので・・・」
つまり、だ。
経年劣化(謎)に伴って現れただぶだぶお肉のおかげで最下層サイズから脱出できた、、、ということなんじゃないんかい、このサクセスストーリー(謎)は。
いずれにせよ、最下層サイズの皆様には、一度、下着売り場で専任アドバイザーさんに「お測り」してもらうことを強く推奨イタシマス。
♪ Ob-La-Di, おぶらじゃ、Ob-La-Di, はーんっ!! ♪♪
おしまい。
余談: 後日、某知人にこの話をしたら、現代日本人の平均サイズはCらしいよ、と言っていた。
B2@ボロは捨てたが、もったいなくて未使用の最下層サイズ品も使うことにシマシタ。