追憶の甘夏ケーキ
B1が、甘夏のことを書いていたので、ふと思い出した。
あれは、中学生のときであったろうか。
B1が、朝市だか何だかに行って、何やら買ってきたものの中に、甘夏のケーキがあった。
(かなり昔のことなので、記憶が定かではない。朝市だかに行った人からの貰い物だったかも知れない。確かなのは、ワタシが作ったわけじゃないということだ)
それは、見た目からして素朴だった。サランラップで包み、ワープロで作ったかのような小さなラベルがぺたりと貼ってある。
そこに記されているのは、『甘夏ケーキ』という品名と、作った人の名前と、住所。それだけ。飾り言葉も模様も何もなし。
包みを開けると、手作り感いっぱいのシンプルなパウンドケーキが現れる。
いや、サランラップは透明だから、外からも、こりゃ自分ちで作ったんだな、とはわかるけど。
ケーキ屋さんで売ってるケーキみたいに、ふわふわの生クリームや光沢を放つ華やかな果物で飾られているわけじゃない。
でも、妙に美味しそうなんだな、これが。
甘夏ケーキというくらいだから、甘夏の飾りでも乗ってるかと思いきや、何もなし。どうも細かくした甘夏を生地に練り込んでいるらしい。
遠慮がちに薄くカットして、パクリと口に入れる。なんてことない味。材料は、小麦粉とバターと砂糖と卵、そして甘夏だろう。口当たりも、いかにも手作りといった感じで、ちょっとボソボソとしてなくもない。
でも、美味しい。とにかく美味しい。
素朴な家庭の味という感じだけど、三つ星レストランのシェフが作る、味も見た目も三重丸なケーキに匹敵する(食べたことないけどな)。
いや、時が経っても記憶に残っている時点で、こっちのほうが勝っている。
素朴で、どこか懐かしい味。
また食べたいと思わせる味。
その後、何回かこの甘夏ケーキを食す機会があった。どこかから貰うことがほとんどで、自分で買った記憶がない。
そもそも、どこで売ってるのかもよくわからない。朝市はいつもやってるわけじゃないし、今はもうないかも知れない。
一度、自然食品の店みたいなところへB1に連れて行ってもらったときに、そこで見つけて驚いたことがあったような。
うろ覚えの記憶を辿りながら、今もどこかで売ってるのかと懐かしく思い出すのであった。
⭐︎B2